先日、私は青葉台の駅でいつものように電車を待っていた。
吹き付ける南風を快く感じながら、わが田園都市を望んでいた。
とても快い日曜の午後だった。
その数分後にあんな嫌な物を見るとは予想もしていなかった…。
その時…、奴は現れたんだ。
ぼさぼさで、虱のついた汚らしい頭。黒淵の丸い大きなめがね。お世辞でも決してまともとはいえない顔つき。首には大きな一眼レフをぶら下げている。
7日は洗ってないと思われる黄ばんだシャツとズボン。無論シャツはズボンの中にぐいぐいと納められている。そればかりでなく、一部分はみ出ていて、いかにもだらしなさを象徴している。
背中には大きなリュックをしょっている。まさにオタクそのものである。
そんな彼が近づいてくるのを私は見た―というより、私の敏感な鼻がその異臭を感じ取ったという方が正しいであろう。私は極力気にかけないよう努め、意識して田園都市の風景を眺めていた。
暫くすると、向こう側から電車が入ってくる。と同時にこちらのフォームでもアナウンスが流れた。刹那、紫の帯をした見慣れない電車がフォームへ滑り込んできた。08系だ。
08系は、東武との直通運転の為新しく導入されたらしく、新型車両だけにその外観の美しさは鉄道オタクのみならず一般人である私をも魅了するものであった。
やがて電車はぴたりと停止位置に止まった…私はドアーが開くのを心待ちにしていた…ようやくドアーが開くと思った瞬間、
「あばばばばばば〜ちゅ〜〜〜〜〜はぁはぁはぁあんあんちゅううううううううう」
私は一瞬、目を疑った。疑っても疑いきれなかった。私は見てしまったのだ。彼が、今まさにその扉を開こうとする08系の車体にディープキスをしているではないか。
しかも意味不明な言葉を吐き捨てながら、全身で08系を感じているようだ。恥ずかしながら申し上げると、彼の汚い部分を、車体に一生懸命こすり付けているようだ。
私はその直後、意識を失いフォームへ倒れこんでしまい、奥沢の東急病院へと運ばれた。意識が戻って、彼の名前が>>1だと知らされたのは、次の日の午後のことだった。